(2021年11月30日)
昨今の風潮なのだろうか、音楽をはじめ舞台芸術に何か特別のメッセージを込めることが求められ、奏者や演者が「みなさんに感動や勇気、元気を届けられるように」と声高に叫ぶ姿に接することがよくある(スポーツでもよくあるかな…)。
受け取る側がその舞台に「何か」を感じることは普通だし、それが舞台芸術の一つの役割でもあるのは確か。だが、奏者・演者の役割は「感動や勇気、元気を届ける」ことが第一ではないと私は思っている。作品に込められたメッセージを伝えることこそが第一の役割なのでは?
作品には、「勇気や元気」与えることのできないような題材、背景を持つものだってあるのだ。奏者・演者が「感動や勇気、元気を届ける」ことばかりを声高に叫ぶようになれば、作品に込められたメッセージが二の次になってしまうのではないか、と私はよく思うのだ。
今回微力ながらお手伝いさせていただいた『九州管楽合奏団ミュージカルコンサート』(2021年11月28日/宗像ユリックス イベントホール)は、そうした私の危惧(と言っては大袈裟かな…)が全くの杞憂に終わるものだった。
劇団四季で活躍されていた方々を中心に構成された歌手陣は圧巻、ダンサーも、加藤敬二さんのお眼鏡に叶っただけあり言葉も出ないほどの素晴らしさ。
吹奏楽のコンサートで、ここまで本格的に、「ミュージカル」に特化したコンサートは極めて稀ではないだろうか?
歌手の皆さんだって、ここまで大きな編成の楽団と共演することは稀であろう。総合プロデューサーの今川誠さんや振付の加藤敬二さんとお話しする時間があったのだが、今回の「共演」について並々ならぬ想いを語ってくださった。
極めて稀な「共演」、それには準備段階でいくつものハードルがあったことも確かだ。
(私自身も決して楽なハードルではなかったのが正直なところ。)
私はリハーサルの2日目から本番当日までの3日間立ち会った。とは言っても、本番以外はほぼ客席で出演される皆さんの動きを見ていただけなのだが(私のメインの仕事は10月までに終わっていたので)。
当初想定されていた構成からは随分と規模が大きくなったと聞いた。
「いいものを創りたい」という気持ちは誰でも同じだ。進めていくうちに想定を超えるものが出来上がっていく。やはりプロの現場だ。
歌手陣、楽団それぞれのやり方、流儀、しきたりのようなものもある。それをぶつけ合うため、ピリピリとしたムードも生まれるのだが、前日のゲネプロで突然同じ方向に音楽が進みだす。それは決して妥協し合ったからではないのだ。そう、終演後に指揮者の松尾共哲さんがおっしゃった「根っこは皆同じ」ということを出演者・スタッフ全員が感じていたからだろう。
「協創」…ふと、こんな言葉が私の頭をよぎった。
出演者・スタッフの皆さんは手を取り合って新たな舞台を「創造」しているのだ。
そして、新たな舞台を「創造」するのは何も出演者・スタッフばかりではない。お客様も一緒に舞台を創るのだということを改めて感じた、お客様の存在が準備段階のいくつものハードルを超えさせてくれるのだということも(ゲネプロの際にお客様を感じていた出演者はきっと多かったと思う)。
井上智恵さんの圧倒的な存在感、背筋が伸びるほどの神々しさ。
宇都宮直高さんはパワフルな歌唱とそのカリスマ性で、舞台を仕切ってくれる。
熊本亜記さんの繊細さと意志の強さを併せ持った歌唱にはそのお人柄が反映されているかのよう(初めてお目にかかったのに、全くと言っていいほど初対面という感じがしなかった)。
ひのあらたさんは「円熟」という言葉だけでは表現しきれないほどの歌唱・演技。
増本藍さんの歌唱には心を抉られるような不思議な(と言っては失礼か)パワーが秘められている。
四宮吏桜さんにいたっては、これからの「ミュジーカル」界を背負っていくであろうと思わせる。
松井英理さんのダンスは圧巻のひとこと(というより、上に書いた通り、言葉が出ない)。
その他ステージを彩った若いシンガー・ダンサーたちの熱演にも拍手だ。
そして九州管楽合奏団、これまでとは違った一面を見せていただいたような気がしている(もちろんいい意味で)。
指揮をとった松尾共哲さん、彼がいてこそ今回の出演者・スタッフ全員がひとつになれたと思う。
今回のコンサート、「腹八分目」を少し超えたけれども、決して「満腹」にはならない。そこは総合プロデューサー今川誠さんの手腕だろう。「またいつか…」と思わせるところがにくい。
しかし、私が個人的に願うのは、このコンサートのお客様で今まで本格的なミュージカルやダンスをあまり観たことがない方々、あるいは九州管楽合奏団の演奏に接したことがなかった方々が、それぞれの公演等に足を運んでみようと思っていただけたら、ということ。そんなお客様が一人でも二人でもいらっしゃったのなら、今回のコンサートは大きな意味を持ったと思うし、もしかしたら今後、第二弾、第三弾…ということにもなるのかもしれない。
私自身、ミュージカルの素晴らしさに改めて気付かされた。
そして何よりも、吹奏楽に携わる者として、ミュージカル関係者に吹奏楽のことを、九州管楽合奏団のことを知ってもらえたことを嬉しく思っている。
こうした「出会い」は貴重だし、大切に育てていきたいものだ。
「出会い」ということで言えば、個人的にもいくつか。
もちろん「新しい出会い」はたくさんある。
歌手の皆さんやスタッフの皆さんとご一緒できたことは本当に得難い経験だった。
指揮者の松尾共哲さんとも「はじめまして」だった。
「お久しぶり」な「出会い」もある。
九州管楽合奏団には旧知の楽員さんが多数いる。一緒に仕事をしていた楽員さんも。これまでとは違った形で関わる機会をいただきとても幸せでした。客演奏者の中にも「お久しぶり」な方がいらして…。とても楽しかった。
「びっくり」な「出会い」もあった。
一曲だけオルガンが入る曲があったのだが、客演のオルガン奏者は、私が大学卒業後半年だけ中学校の先生をした時の生徒…当然彼女もびっくりしたようだが、いろいろと話ができて嬉しかった。
この歳になってさらに視野が広がったような気がするし、まだまだやれそうなことがあるな、と感じた3日間。
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(Facebookへの投稿を一部加筆・修正の上転載しました。)