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月: 2021年4月

シモン・ゴールドベルク・ラスト・コンサート:       シモン・ゴールドベルク 指揮/水戸室内管弦楽団

2021年4月12日 記

こちらから購入できます {TOWER RECORDS}

【曲目】
バッハ:管弦楽組曲第2番ロ短調BWV1067
モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550
ヒンデミット:弦楽のための5つの小品Op.44-4(器楽合奏のための学校用作品Op.44より)
ハイドン:交響曲第82番ハ長調「熊」
(アンコール)ハイドン:交響曲第82番「熊」より終楽章

【演奏】
シモン・ゴールドベルク(指揮)
水戸室内管弦楽団
工藤重典(フルート/バッバ作品)

【録音】
1993年4月11日、水戸芸術館コンサートホールATM

私が折に触れて読み返す一冊に、『20世紀の巨人 シモン・ゴールドベルク』という本があります。自分が演奏をする上で指針、というか支えになっている本のひとつと言ってもいいでしょう。ご存知の通り、シモン・ゴールドベルク(1909-1993)はその晩年を日本で過ごし、演奏だけでなく教育に尽力された方です。私は残念ながら実演や講演に接することができなかったのですが、没後発売されたCDや書物などで彼の偉大さ(少々語彙が貧弱かもしれませんが…)を感じているところです。

20世紀の巨人 シモン・ゴールドベルク』に収載されている「箴言」集や、彼から薫陶を受けた方々の話(彼の教え)は、本当に貴重です。「考えはいつも変わるから」と、自身の考えを本にまとめる考えは持たなかったという彼の言葉のひとつひとつは、短いながらも考え抜かれた、示唆に富んだものだと思います。この本を手放すことはまずないと思っています。

こちらから購入できます。

彼の教えを受けた方々のお話にも出てくる演奏(指揮)のひとつが、この水戸室内管弦楽団とのライヴ、彼が亡くなる3ヶ月前の演奏です。

リハーサル初日から彼の音楽づくりに魅了されたという楽員さんたち(日本でも屈指の奏者ばかり、というのはご存知の通り)、「リハーサルを増やして欲しい」と彼にお願いしたのだそうです(彼は、リハーサルの短縮を相談に来たと思ったそうですが)。

バッハにしても、ハイドンやモーツァルトにしても、いわゆる「古楽」系の、ピリオド的な、学問的なアプローチではありません。「ここにあるべきはこのような音」という強い意志が感じられます。というより、「古楽的」とか「ロマン的」といったレッテルを貼ることが全く無駄であるということを思い知らされるような演奏なのです。感情過多でもなく、アクの強さといったものも皆無。作品自体が持つ感情を引き出し、聴き手の感情を喚起する演奏とはこういうものなのか、と(正直、朧げではあるのですが)思い知らされます。ぜひ生で聴いてみたかった…。

新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮したCD(シューベルトの『交響曲第5番』とシューマンの『第4番』)について、そして彼の(晩年の)ヴァイオリン演奏の録音についても、今後取り上げてみようと思います。

サン=サーンス『動物の謝肉祭』他:根本英子(ピアノ)他

2021年4月3日 記

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【曲目】
サン=サーンス : 動物の謝肉祭《動物学的大幻想曲》 (ルシアン・ガーバンによる連弾版)
ゲイリー・ショッカー : ラブバード
クリフォード・ベンソン : アラベスク
ロッシーニ : 「泥棒かささぎ」序曲
当摩泰久 : フルートとピアノのための「Green」
團伊玖磨 : 「わがうた」より「ひぐらし」
当摩泰久 : 「さぷりエクササイズ」(黒河好子)より ネコ/ウシ/サカサマカッコウ
クリフォード・ベンソン : 小さなパロディ
メキシコ民謡(尾尻雅弘 編) : ラ・クカラーチャ
山田耕筰(当摩泰久 編) : 「赤とんぼ」

【演奏】
根本英子(ピアノ) / ラファエル・ゲーラ(ピアノ) / 三舩優子(ピアノ) / 当摩泰久(ピアノ)
尾尻雅弘(ギター) / 古川仁美(フルート、ピッコロ) / 岩出敏子(ソプラノ)

「CD作ったから送るね!」と連絡が入ったのは2019年の春先、これまで「伴奏者」として彼女がクレジットされたCDはあったのですが、今回は堂々、自身のアルバムではないですか!!いやぁ、目出度い!!

根本英子(以下「英子」)は大学の同級生。専攻も違えば出身地も全く違います。共通の友人がいたわけでもないので、知り合うきっかけというのはほとんど転がっていなかったのですが、ひょんなことから知り合うことになります。

どこか波長が合ったのでしょう、現在でも付き合いの続く数少ない同級生のひとりです。それこそ、CDのライナー・ノーツ(ここには、これまで知らなかった英子がたくさん顔を出しています。逆に私しか知らない英子の顔もあるのですが…笑)に寄せられている文章にもある通り「唯一無二の存在」と言ってもいいでしょう。
(北九州市内で勤務していた頃、「今(仕事で)熊本にいるけど、これから来ない?」と電話してきて私を困惑させたり(すぐに行ける距離と思っていたようです。まぁ、九州人でない限り仕方のないことですが)、私が仕事で上京した際、行きつけとはいえ九州料理がメインの居酒屋でもてなしてくれたのは、後にも先にも英子だけです…笑)

実は、英子と音楽について深く話した記憶もなければ(と言ったら怒られるか…)、彼女の演奏にいつも接していたわけでもないのです。おそらく学生時代は試験(とは言っても「グループ・コンサート」といって公開されていました)でグラナドスの『ゴイェスカス 〜第1曲』を聴いたくらいですし、10年ほど前宮崎で、このCDにも参加されている古川仁美さんとお弟子さんのコンサートに伴奏者として出演したのを聴いたくらいか…。

おそらく、「音楽どっぷり」の関係ではなかったからこそここまで付き合いが続いているのかもしれない、と思っています。しかし、やはり音楽がなければ続いていなかったでしょう。何度か持ちかけられた無理難題のおかげで、私も随分勉強することができたのは確かですし、違う世界を見せてもらったことも大きな刺激になりました。

英子の強みは、「クラシック」一色に染まっていないことでしょう。実際、ロックも演りますし、篠笛の名取でもあります(が、いずれも直に聴いたことはない…笑)。自身がライナー・ノーツに寄せた「自叙伝」を読むと、「ロックな生き方しているな…」と改めて思う次第。そして、「そりゃ、たくさんの仲間に恵まれるはずだよ」とも。
(そうそう、筆(書道の方です)を持たせると、これまた見事なのですよ。)


自由であり、正直であり、気遣いの人。それが根本英子なのです。この楽しいCDにはそれら(“英子○十年分の人生”と言ってもいいでしょう)が全部詰まっています。
自身のアルバムなのですが、ソロはクリフォード・ベンソン作曲の2曲のみというのもいかにも英子らしい。

身近な者の演奏も少し時間を置けば冷静にレビューできるのではないかと思っていたのですが、ここまで書いてみると、どうも難しいようです。

ですから参考までに…、2019年の『レコード芸術』誌9月号にこのCDは取り上げられ、2名の評者はいずれも「準推薦」盤と評価されています。いやいや、誇らしいです。

きっと、英子がこの一枚で終わることはないでしょう。まだまだ何かをやってくれそうですし、それを期待しています。

マーラー『 交響曲第2番:復活』:ロリン・マゼール 指揮/読売日本交響楽団 他

2019年5月 記

こちらから購入できます {TOWER RECORDS}

マーラー: 交響曲第2番「復活」

指揮:ロリン・マゼール 

演奏: 読売日本交響楽団  片岡啓子(ソプラノ)  伊原直子(アルト)  武蔵野音楽大学合唱団

遂に出たか!という気持ちでいっぱいです。

1987年5月のライブ録音、二日に亘って開催された読売日本交響楽団創立25周年記念演奏会(&定期演奏会)の2日目の記録です。

マゼールが初めて日本のオーケストラを指揮するということで、当時随分話題になりました。

実は、私は「合唱団」の一員として参加しております。私は大学では「音楽学」を専攻していたのですが、合唱の授業は声楽のクラスと一緒でした(「男声」が少ないため、ピアノ専攻の男子学生などもこのクラスでした)。私は、合唱が「選択授業」だったのですが、前年度の終わりに「マゼールと“復活”!」と聞いていたので迷わず選択したのです(笑)ちなみに合唱団はこの年12月に読響(フリューベック・デ・ブルゴス指揮)でオルフの『カルミナ・ブラーナ』の演奏にも参加しています(全編暗譜だったのは辛かった…笑)。

合唱は第5楽章のみですが、最初からステージに。私はほぼ真正面に位置していました。マゼールの指揮を終始見つめておりました(正面から彼の指揮を見る機会なんてそうそうないですから)。

さて、このCDは一聴すれば分かる通り、本来はCD販売を目的にしていなかった録音です。音質は、マスター・テープの経年劣化のためでしょうか、あまり良いとは言えません。

マイクはおそらく、ステージ前方(指揮者の上?)に一本だけでしょう。しかも、ホール内の残響までは拾いきれていないので、演奏の「キズ」も結構ムキ出しだったりします。が、さすがマゼール、それを補って余りあるほどの「熱量」、ポテンシャルがこの演奏からは感じられます。やはり、マゼールはどのようなオケを指揮してもマゼールでしかないのです。

指揮者近くのマイクのみ、とうことで、「マゼールにはこんな風に聴こえていたのでは?」という気持ちにもなりますし、時々聴こえる息づかいは、マゼール自身のそれではないかとも思え、それだけでも面白い、というか貴重な記録です。

実は、公演初日で合唱は終盤に乱れてしまいました。このCDに記録してある2日目、マゼールは前日乱れた部分の指揮を大きく変えてまで私たちを導いてくれました。

後日、マゼールの通訳をなさった方が、このCDに記録してある2日目の演奏後にマゼールが「今日は本当に合唱が素晴らしかった」と言っていた、と大学宛にお手紙をくださったとのこと。光栄なことです。が、これは「マゼール・マジック」なのですよ(それはすでにリハーサルの時から現れていました。学習院のホールで行われた「オケ合わせ」は、ドイツ語の発音を若干修正した程度で、確か一回通した程度で終わったはずです)。

「マゼールはマゼールでしかない!」そんな記録です。