柴田南雄氏の著作集(と言っても作曲作品ではない)を手に入れる。
分厚い本なので、普段から持ち歩いて、というわけにはいかない。
また、一気に読破するようなものでもない。気になった時に気になったページをめくるのだ。
私にとっては、作曲家というより音楽学者としての印象が強い。
学生の時、音楽史のテキストに柴田南雄氏の本を使った私の恩師・武田明倫先生は、氏の教え子だ。
私は「孫弟子」らしきことをひとつもできていない。
この著作集を読んでいると、「もっと早く、若い時に欲しかったなぁ」などと思ってしまう。ただ、若い時には欲しいと思ったかどうかは正直分からない。
まだ全てに目を通したわけではないのだが、私の音楽に対する考え方、見方などに少なからず影響を与えてくれそうな気がしている。
やっぱり、まだまだ欲があるのだ、私にも。
私のような少々ひねくれ者にも、恩師や恩人と言える方はいる。
上述の武田明倫先生だってそうだし、私を今の立ち位置にまで導いて下さった多くの方々。
ただ、本当の意味で音楽的な影響を与えて下さった方はおひとり。作曲家でもない、演奏家でもない。理論家の方だ。
学生時代に初めてこの先生の講義を受けた時から、心酔とまではいかないが、初めて尊敬できる方と出会った、と感じた。
それまでに、その先生のお名前も知っていたし、著書も読んだことがあった。
今でも、何か分からないことがあったりすると、先生の著書や訳書にまず手が伸びるのだ。
それほど私にとっては影響力が大きい。
非常勤でお見えになっていたこの先生(他大学の教授だった)の講義、もっとたくさんの仲間に受けて欲しいと思ったものだ。
何度目かの講義の後、私を含め僅か数名だった受講生を大学近くの居酒屋でもてなして下さったのだが、音楽の話もそこそこに、店内で流れていたテレビの相撲放送に夢中だった先生の姿がなつかしい。
卒業後しばらくは、時々手紙のやり取りをしたり、著書を贈っていただいたりというお付き合いだった。その後お会いしたのは12、3年前、武田明倫先生の葬儀。
あれからどうされているだろうか…。
東川清一先生の本は今も本棚の一番いい場所並んでいる。
(2015年)