3年生の皆さん
久しぶりに正門の長話になるかもしれませんが…
お節介ながらも、今私にできることは、みんなの前に立つことではなく、みんなの背中を少し押すことかな、と思っています(その方が、加齢臭やたばこ臭さで迷惑をかけることもないでしょうから…)。
おおよそ、音楽や文化というものは、人々の苦しみの中から生まれ育まれてきたものです。悩みや苦しみの中でこそ人間は知恵をはたらかせ、向上させることができると思っています(人生を語れるほどの生き方をしてきたわけではないので、話半分に聞いてもらって構いません)。
皆さんはここまでの時間、たくさん悩み、もがき苦しんできたかもしれません。毎日接していたわけではありませんが、だからこそ感じるものがたくさんありました。立場上、どうしても踏み込めない領域というものも確かにありました。しかし、皆さんと時間を重ねていくうちに、「みんなは、一から十すべてを与えなくても、自ら掴むことができる。」と思うようになりました。皆さんは、自らが置かれた状況を直視し、それこそ知恵をはたらかせ歩んできたのですから(それに、「不屈の」精神力も!!)。
今だに、不安や悩み、葛藤があるかもしれませんが、それは、皆さんが「成長」している、「向上心」を失っていない証しだと思います。悩むことで人としての「引き出し」は増え、それは必ず次に活かせます。逆に、引き出しが増えることによってさらに悩み、葛藤することもあります。成長すればするだけ、問題の解決には時間がかかるものなのです。しかし、その分皆さんの心から生み出される音楽は深いものになるはず…。
何も「苦しみながら音楽をやれ!」と言っているわけではありません。
どのような作品にも、(極端な言い方かもしれませんが)「人の生きざま」が映し出されているものです。皆さんも私もまだまだ「生きざま」を語れるような歳ではないのですが、例えば、暗い和音、悲しいメロディーに接した時、何かそのような経験を重ねていた方がより共感できると思いませんか?難しく考えることはない…。
私が初めて皆さんと接した時に苦しんだことは、前任の□□先生の影響力の大きさです。前任者の影響が色濃く残る場所に(仕事とはいえ)入っていくことは、正直キツイ…。
(恐らく、音楽に限らずどのような世界にもあることでしょうが…。今にして思えば、私の方が皆さんに導いてもらったようです。)
ただ、互いが互いの状況や心情を慮ることができれば(決して「妥協しあう」ということではない)、目指す方向は一緒だと思いますので…。
皆さんと私は、その点で分かり合えるものが少しはあったのだろう、と勝手に思っています。言いたいこと、伝えたいこと分かりますか?
皆さんが、私と過ごした時間を大切に思っていただいている(お世辞だと思うようにしてますが…)ようで、ありがたく思っていますし、私も、自分の音楽人生の中で(決して大袈裟でなく)大事な時間だったと思っています。だからこそのお願いをしたい。
「正門の音楽を再現」などと考えないでほしい。もちろん、一緒に音楽してきた中で、感じたこと、得たもの、吸収したと思うものを少しでも活かしていただけるのなら、こんなに嬉しいことはありません。
ひとりひとり想いは様々だとは思いますが、何度か言ってきたように、「音楽はその都度新しく生まれる」ものです。今だからこそ生まれうる皆さんの音楽がきっとあります。空間や雰囲気、ましてやお客様が違う中で、以前と同じことを再現しようと思っても、それで演奏する側が満足したところで、以前と同じように感じてもらえるとは限りません。
大切なのは、今の皆さん自身を音楽で伝えることです。皆さんはそれをずっとやってきたのですから(少なくとも私はそう感じながら皆さん前に立っていました)!!
やれないはずはないよ!!
(2018年7月25日)